強度行動障害のある子どものための支援ガイド:原因の理解と効果的な関わり方(ABA・PECS)

白ゆりグループ

1. 強度行動障がいとは?日本特有の概念とその定義

「強度行動障がい」という言葉、少し難しく聞こえるかもしれませんね。
これは、主に日本の福祉や教育の現場で使われている言葉です。
毎日の暮らしの中で、ご本人や周りの人が「ちょっと大変だな」「どうしたらいいかな?」と感じるような行動が、何度も見られる状態のことを指します。

たとえば、

  • つい自分自身を叩いたり、噛んでしまったり…(自傷)
  • 他の人に手が出てしまったり、物を壊してしまったり…(他害)
  • 気持ちが落ち着かず、長い時間泣いたり叫んだりしてしまう…(興奮)

といった行動が、繰り返し見られることがあります。

こうした行動は、ご本人の心や体を傷つけてしまう心配があるだけでなく、そばで見守るご家族や支援する方々にとっても、「どう接したらいいんだろう?」と大きな悩みや負担に感じられることがあります。

「強度行動障がい」という呼び方は日本で使われていますが、海外にも「Challenging Behavior(チャレンジング・ビヘイビア/挑戦的な行動)」という、似たような状態を表す言葉があります。

大切なのは、これらの行動を、単に「わがまま」や「困った行動」としてだけ捉えないことです。
その行動の裏には、ご本人なりの理由や、うまく言葉にできない「伝えたい気持ち」、あるいは何か困っていることがあるのかもしれません。

だからこそ、一方的に行動を止めさせようとするのではなく、その子の気持ちに寄り添いながら、「どうしたらもっと安心して過ごせるかな?」「どんな手助けや工夫ができるかな?」と一緒に考えて、その子に合ったサポートをしていくことが、とても大切になるのです。

2. 強度行動障害の原因と挑戦的行動との関係

では、どうして強度行動障がいに見られるような行動が起こるのでしょうか?
その背景には、ひとつの理由だけではなく、いくつかの要因が関係していると考えられています。

多くの場合、その方が生まれ持った発達の特性、たとえば自閉スペクトラム症(ASD)や、知的発達のゆっくりさ(知的障がい)などが、行動の背景にあると言われています。

それ以外にも、ご本人の体質や感覚の特性、あるいは周りの環境(例えば、騒がしい場所が苦手、予定が変わると不安になるなど)が影響している可能性も考えられます。

ここでとても大切なことをお伝えします。
こうした行動は、決して「家庭での育て方が悪かったから」起きるわけではありません。
ご家族がどんなに愛情を注ぎ、一生懸命に関わり方や環境を工夫しても、それだけではなかなか変えるのが難しい場合がほとんどなのです。
「自分のせいだ」とご自身を責めないでくださいね。

ちなみに、海外で「Challenging Behavior(チャレンジング・ビヘイビア)」について理解を深めようとするとき、「ABC分析」という考え方がとても役に立つと言われています。
これは、

  • Antecedent(先行条件):行動が起こる前に何があったか?その行動が起こる に、何があったか?(例:特定の場所に行った、大きな音がした、予定が変わった、要求が通らなかった など)
  • Behavior(行動):どんな行動が起きたか?具体的に どのような行動 が見られたか?(例:床に頭を打ち付けた、大声で叫んだ など)
  • Consequence(結果):その行動の に、何が起こったか?(例:周りの人が注目した、要求が通った、その場から離れられた など)

という3つの点に注目して、状況を整理してみる方法です。

こうして「行動の前後」を丁寧に見ていくことで、「どんな時にその行動が出やすいのか(きっかけ)」や、「その行動によって、本人は何を得ているのか、あるいは何を避けようとしているのか(行動の意味や目的)」を探るヒントが見つかりやすくなります。
これが、その方に合った関わり方を見つけるための大切な手がかりになるのです。1 2

では次に、こうした行動に対して、具体的にどのようなサポート方法(療育)があるのかを見ていきましょう。

3. 強度行動障害への療育:ABA、PECSの効果とは?

強度行動障がいに見られる行動と向き合っていく上で、「療育(りょういく)」と呼ばれるサポートが、とても大切な役割を担っています。
療育には様々な方法がありますが、その中でも、特に効果が期待されている代表的なものを2つご紹介しますね。
「ABA(応用行動分析)」と「PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)」です。
それぞれどんなものか、見ていきましょう。

ABA(応用行動分析)- 行動の「なぜ?」を探り、より良い方法を一緒に見つける –

ABAは、その子の「行動」とその「前後の状況」に注目する考え方です。
具体的には、その子にとって、あるいは周りの人にとって、より過ごしやすくなるような行動(例えば、言葉で伝える、助けを求めるなど)を少しずつ増やしていくお手伝いをします。
そうすることで、結果的に、困った行動(自傷や他害など)が自然と減っていくように働きかけるのです。

前のセクションでお話しした「ABC分析」を使って、「どんな時にその行動が起きるのか」「その行動の理由は何か」を探り、その子に合わせて、オーダーメイドの方法を考えていきます。

たとえば、何かを達成できた時や、望ましい行動ができた時に、すかさず褒めたり、本人が喜ぶご褒美(シールや好きなおもちゃで遊ぶ時間など)を伝えたりします。
こうすることで、本人は「この行動をすると良いことがある!」と自然に学び、その行動が増えていくのを助けます。

これまでの研究では、特に自閉スペクトラム症のお子さんへのABAの関わりによって、困った行動が大きく減ったという報告もあります。
ABAを取り入れることで、自分を傷つけたり人を叩いたりする行動が減り、自分の気持ちを伝えたり、周りの人と関わったりする力が伸びていくことが期待できます。。3

事例:5歳の自閉スペクトラム症の子どもに対するABAの効果

たとえば、自閉スペクトラム症(ASD)と診断された5歳のA君。
A君は、おもちゃを片付ける場面になると、よく自分の頭を叩いてしまう(自傷行為)ことに、ご家族は悩んでいました。

そこで、ABAの考え方でサポートを始め、「ABC分析」で行動の背景を探ってみました。
すると、どうやら「お片付け」という活動そのものが、A君にとって大きな負担になっていて、それが自傷行為のきっかけになっているようだ、と考えられました。

そこで、「お片付け」のやり方を少し変えてみることにしました。
一度に全部片付けるのではなく、おもちゃを一つ片付けるごとに、「できたね!すごい!」とたくさん褒めて、A君が大好きなミニカーで少し遊べる時間を作りました。
これを根気強く続けていくうちに、A君が頭を叩く回数はぐっと減り、お片付けも少しずつスムーズにできるようになっていきました。

この例からも、その子に合わせてABAの考え方で工夫することが、困った行動を減らすのに役立つことがわかりますね。

PECS(ペクス:絵カード交換式コミュニケーションシステム)ってなあに?

自分の「~したい」「~がほしい」という気持ちや要求を、うまく言葉で伝えられない…。
そのもどかしさや困り感が、時には、大きな声を出したり、物を投げたりといった、周りが「困ったな」と感じる行動につながってしまうことも少なくありません。

PECSは、そんな風に、言葉で自分の気持ちを伝えるのが難しいお子さんを、絵カードを使ってお手伝いする工夫の一つです。
まだお話が難しいお子さんや、知っている言葉の数が少ないお子さんでも、自分が「ほしいもの」や「したいこと」が描かれた絵カードを相手に渡すことで、自分の意思を伝えることができるようになります。

最初は、「おやつ」「ジュース」「トイレ」といった、本人にとって分かりやすく、要求が通りやすいカードから始めます。
そして、「カードを渡せば、自分のしたいことが伝わるんだ!」という経験を重ねながら、少しずつ使うカードの種類を増やしたり、「もっと〇〇がほしい」のように、いくつかのカードを組み合わせて伝えたりと、表現の幅を広げていきます。

PECSを使うことで、「言いたいことが伝わらない…」というもどかしい気持ち(フラストレーション)が減り、その結果として、困った行動が起こるのを防いだり、減らしたりすることにつながりやすくなります。
コミュニケーションの成功体験は、お子さんの自信にもつながりますね。4 5 6

4. 家庭や学校でできる対応策と予防法:コミュニケーション支援の重要性

強度行動障がいのある方を支える上で、ご家庭や学校など、日々の生活の場での関わり方は非常に重要です。
専門的な療育と連携しながら、日常の中でできる工夫を探っていきましょう。

日常に活かす「ABC分析」- 行動のサインを見逃さない –

「なんで、今この行動が起こったんだろう?」と感じた時、ABC分析の視点(A=行動の前、B=行動、C=行動の後)で状況を振り返ってみる習慣をつけてみましょう。

  • 記録をつけてみる: いつ、どこで、誰といる時に、どんな行動(B)が起きたか? その直前(A)に何があったか? その後(C)どうなったか? 簡単なメモでも構いません。
  • パターンを探る: 記録を続けていくと、「こういう状況の時に、この行動が起こりやすいな」「この行動の後には、いつもこうなるな」といったパターンが見えてくることがあります。
  • 仮説を立てる: パターンが見えてきたら、「もしかしたら、〇〇が苦手なのかもしれない」「△△したいというサインなのかもしれない」といった仮説を立ててみましょう。

このプロセスを通じて、行動の背景にある「意味」を理解しようと努めることが、予防的な関わりや、より適切な支援を見つけるための第一歩となります。

ABAの考え方を日常に

ABAの考え方は、専門家だけのものではありません。
家庭や学校でも、そのエッセンスを取り入れることができます。

  • 「できた!」を増やす: 難しい課題は小さなステップに分け、一つひとつクリアできたら具体的に褒める。「すごいね!」「ありがとう!」といった言葉や、本人が喜ぶちょっとしたご褒美で、「できた!」という達成感を積み重ねていきましょう。
  • 望ましい行動を教える: 困った行動で要求を伝えようとする代わりに、より適切な伝え方(例:言葉で言う、絵カードを見せる、ジェスチャーをする)を教え、それができた時に要求が叶うようにします。
  • 環境を整える: 苦手な刺激(大きな音、人混みなど)を避けたり、一日のスケジュールを絵や写真で示して見通しを持たせたりすることも、混乱を防ぐ助けになります。

FCT(機能的コミュニケーション訓練)- 適切な「伝え方」を一緒に練習 –

FCTは、困った行動の「代わり」になる、より適切で分かりやすいコミュニケーション方法を教える訓練です。
「伝えたいことがあるけれど、どう言えばいいか分からない」という時に、助けを求める方法や、自分の気持ちを表現する方法を具体的に練習します。

  • 例:「助けて」のサインを教える: 言葉で「助けて」と言うのが難しいお子さんには、代わりに「手を挙げる」「特定のカードを見せる」といった行動を教えます。
  • すぐに要求に応える: そのサインが出たら、できるだけ早く、そして一貫して、本人の要求に応えたり、手助けをしたりします。これにより、「この方法で伝えれば、分かってもらえるんだ」ということを学習します。

【事例から学ぶ:FCTで変わったBちゃんの伝え方】

4歳のBちゃんは、言葉の発達にゆっくりさがあり、自分の思い通りにならないと、かんしゃくを起こして大声で泣いてしまうことがよくありました。
ご両親は、Bちゃんが適切な方法で気持ちを伝えられるように、FCTを取り入れることにしました。

まず、「助けてほしい時」や「何か取ってほしい時」に、泣く代わりに、近くにいる大人の袖を「ちょんちょん」と軽く引っ張る、という行動を教えることにしました。
そして、Bちゃんが袖を引っ張ってきたら、ご両親はすぐに「どうしたの?」「何かしてほしいの?」と優しく声をかけ、Bちゃんの要求に応えるように心がけました。

最初は戸惑っていたBちゃんでしたが、袖を引っ張ると自分の気持ちが伝わる、という経験を繰り返すうちに、次第にかんしゃくを起こす回数が減っていきました。
代わりに、困った時には袖を引っ張って、助けを求められるようになったのです。
この事例は、FCTによって具体的なコミュニケーション手段を学ぶことが、本人のストレスを減らし、問題行動の予防に繋がることを示しています。

PECSの活用 – 視覚的なサポートでコミュニケーションを豊かに –

言葉でのコミュニケーションが難しい場合、PECSの絵カードは家庭や学校でも大活躍します。
「おやつ」「トイレ」「テレビ」「公園」といった基本的な要求から、「〇〇がしたい」「△△は嫌だ」といった気持ちの表現まで、絵カードを使うことで、言葉だけに頼らない豊かなコミュニケーションが可能になります。

要約とまとめ一人ひとりに合わせた支援で、より良い明日へ –

強度行動障がいは、ご本人にとっても、周りの人々にとっても、大きな困難を伴う状態です。
しかし、その行動の背景にある「困りごと」や「伝えたい気持ち」に目を向け、適切な支援を根気強く続けることで、状況は必ず変化していきます。

  • ABAPECSといった療育的なアプローチは、科学的な根拠に基づき、困った行動を減らし、コミュニケーション能力を高めるための有効な手段です。
  • 医療的な選択肢として、薬物療法(リスパダールやエビリファイなど)が検討されることもありますが、これは医師との十分な相談の上で、慎重に進められるべきものです。
  • 何よりも大切なのは、ご家庭や学校といった日常の場での理解と工夫です。ABC分析の視点で行動を捉え、FCTなどを通して適切なコミュニケーション方法を育むことが、予防と改善の鍵となります。

一つの方法に固執せず、ご本人の特性や状況に合わせて、さまざまな支援を柔軟に組み合わせていくことが大切です。
療育や医療の専門家、学校の先生、そしてご家族が連携し、チームとなって支えていくことで、ご本人がより穏やかに、自分らしく生きていくための道筋が見えてくるはずです。

これからも、研究や実践を通して、より良い支援の方法が生み出されていくことでしょう。希望を持って、一歩ずつ、共に歩んでいきましょう。

お困りのときは、一人で抱え込まないで

強度行動障がいについて、「うちの子のことかもしれない」「どう対応したらいいか分からない」とお悩みの方、具体的な支援方法について知りたい方は、どうぞ一人で抱え込まず、専門機関に相談してみてください。

白ゆりグループ(有限会社SK・NPO法人白ゆり)でも、ご相談を受け付けています。
専門のスタッフが、お話を丁寧にお伺いし、お子さんやご家族にとって最適なサポートや療育の選択肢を一緒に考えさせていただきます。

お問い合わせ方法

  • 電話でのお問い合わせ
    専門スタッフが対応いたします。お気軽にご連絡ください。
    0120-043-667
  • 問い合わせフォームでのお問い合わせ
    ウェブサイトのフォームから、詳しい状況やご相談内容をお送りください。確認後、ご連絡させていただきます。問い合わせフォームはこちら

強度行動障がいへの支援は、早期の気づきと対応が、ご本人とご家族の未来にとって、とても大切です。
どんな小さなことでも構いません。「ちょっと聞いてみたい」という気持ちがあれば、どうぞお気軽にご連絡ください。
私たちが、皆さまに寄り添い、サポートさせていただきます。

参考文献

  1. 2.Functional Assessment of Challenging Behavior ↩︎
  2. 3.Challenging behavior of patients with frontal dysfunction managed successfully with behavioral intervention ↩︎
  3. 4.Telehealth and Autism: Treating Challenging Behavior at Lower Cost ↩︎
  4. 5.USING THE PICTURE EXCHANGE COMMUNICATION SYSTEM (PECS) WITH CHILDREN WITH AUTISM: ASSESSMENT OF PECS ACQUISITION, SPEECH, SOCIAL-COMMUNICATIVE BEHAVIOR, AND PROBLEM BEHAVIOR ↩︎
  5. 6.Effectiveness of the Picture Exchange Communication System (PECS) on Communication and Speech for Children With Autism Spectrum Disorders: A Meta-Analysis ↩︎
  6. 7.Meta-analysis of PECS with individuals with ASD: Investigation of targeted versus non-targeted outcomes, participant characteristics, and implementation phase ↩︎

Recommend
こちらの記事もどうぞ
記事URLをコピーしました